バー & キッチン レッドスパイス
0011239

「フグタ君、今日ちょっとやっていかないか?」

アナゴ君がオチョコでクイッと一杯やる手振りをする。

「イイネ。」とボクは言う。

今日は残業もしなくてよさそうだし、明日は休みだ。

休みの前日ぐらい飲んだって良いじゃないか。

ボクはそう自分に言い聞かせ、サザエに電話をする。

「もしもし、ボクだけどサザエかい?今夜はアナゴ君と飲んで帰るから、遅くなるよ。」

電話の向こうでは「あまり遅くなってはダメよ。」とサザエが不機嫌そうに言う。

「わかったよ。」とボクは言ってそそくさと電話を切った。

仕事も定時で終わり、アナゴ君といつもの酒場で一杯やりながら他愛もない会話をしていたのだが、
酒がすすむに連れアナゴ君は家庭の不満を言い出した。

家の嫁がうるさいだの、休日にゴロゴロしているのも許されないだの…

聞いていたボクは段々と腹が立ってきた。

なぜって?

そんな愚痴をこぼしながらも顔はにこやかなのだ。

アナゴ君、キミはボクの家庭事情を知っているだろう?

しかし、ここでキレてしまって今後会社でギクシャクするのは避けなくては…

「アナゴ君、キミ、大分酔っているみたいだ。そろそろお開きにしようじゃないか。」

そう促しボクらは酒場を後にした。

しかしボクはこのままあの家に帰る気にはなれず夜道を徘徊した。

「チクショウ…アナゴ君め…キミは幸せな方だよ…ボクなんて…」

日頃の不満が沸き上がってくる。

婿養子になったばかりにお父さんにペコペコ、お母さんにもペコペコ…サザエにも強く意見も言えないし。
ワカメちゃんはまだ良しとしても、カツオ君はヒドイ。
いつも任せとけって悪知恵を働かす割に成功したことなんてないじゃないか!
大体サザエのあの髪型は何なんだ!あんなんじゃ恥ずかしくて一緒に歩きたくないよ!

マスオは日頃の鬱憤が爆発しそうだった。

やり切れなさに涙がこぼれそうだ。

ふと顔を上げると数メートル先に明かりが灯っている。赤い扉がマスオを誘う。

「もう一軒寄っていくか…」

マスオは心の中で呟くのである。